あれからちょうど1週間。ついにこの日がやって来た。集結する低血圧風情、テンション低めの男性3名。同じく集まったやけにテンション高めの女性3名。彼女達はそりゃあ楽しいだろう。本日は食べて批評するだけなのだから。
持ち時間2時間以内でオードブルとメイン、2品を作らなければいけない料理対決。材料費は一人3,000円以内。普段作り慣れてるメンツではないだけに、料理センス以上に「2時間で何を作るのか」、即ち選品が勝負の肝になる。「ところで今日何作るの?」答えを予想しつつ対戦相手に振ってみる。「・・そういうお前は何つくるの?」質問を質問で返す2人。やはりそうか。案の定、誰も何を作るか決めていない。
「つーか何作ろう」「灰汁とるのってどうやんの?」会話のやり取りで実力が窺い知れる予想通りの展開。愚痴の言い合いがひとしきり続き、その後、それぞれ持参した料理本で情報収集すること30分。ようやく決まった。「トマトが俺を呼んでいる」「やっぱ日本は和食だね」。何を作るか決めただけで湧き上がる心地良い達成感が3名を包む。
そして皆で食材調達。30を過ぎた男性3名が仲良く連れ添う日曜のダイエー。家族連れか主婦でごった返す店内で一際その姿は異様に映る。カートを押して歩く一行。「タマネギ使う人いる?」「あ 俺使う」「みりん買うの忘れた」「豆板醤ってどこにあるの?」人生で初めて食材を軸とした会話がエンドレスに続く。不自然な笑顔。「鶏肉買うの忘れた!あちゃー」テンションが高いアクション。私を含めた3名全員、料理を作ろうとする自分に酔っている。
M君がチョイスした2品は、生春巻と筑前煮。生春巻はともかく、準備に時間が掛かる日本の心、筑前煮はチャレンジングな選択だ。さすが優勝候補と言われるだけはある。もう一名、料理経験がゼロに等しいB君はアジの叩きとラタトゥイユ、加えてトマトソースのペンネまで作るらしい。包丁を持ったことすら数えるほどの彼が、何故だか一番自信満々だ。その根拠は「俺、料理番組良く見てるから」。何故か納得してしまう。私の選択は東北の郷土料理、納豆汁と、ピーマンの特性肉詰め。汁物と詰め物系は誰とも被らないだろう、という戦略を元に調理を開始する。
かくして真剣勝負が始まった。まずは納豆汁。鍋に水を張り、昆布を入れて弱火で1時間弱ほど煮詰めた後、今度は煮干しでダシを取る。その後、微塵切りにしたネギと人参を入れてコトコト煮込み、挽き割り納豆を3パック投入。最後に味噌を濃いめに溶き、待つこと30分。予想以上にパーフェクトな納豆汁が完成した。
続いてピーマンの特性肉詰め。合い挽肉に細かく刻んだにらとタマネギ、卵2個、パン粉、ネギ、ニラを混ぜ、2つに縦割りしたピーマンに詰めていく。サラダ油をひいたフライパンで肉の部分を下にして炒めた後、今度はピーマン部分を下にして、適量の水にみりん、醤油、料理酒、砂糖を混ぜたダシ汁に浸し、中火で5分強蒸す。ダシ汁が飛んだところで取り出し、残った汁に片栗粉を絡めてピーマンに掛ける。ライバルの進捗を片目に見ながら試食。マジで美味い。我ながらナイスな出来映えだ。
M君、B君の調理もほぼ同時に終了。ここに7品の男料理が完成した。腹を空かせ口数も少なくなった女性審査員が、テーブルに並んだ料理を箸で摘んでいく。「やばい」「キテる」「美味すぎ」。ライバルを含め絶賛の嵐で気分が良い。M君の筑前煮は完璧だ。女性でもここまでバランスの取れた味付けを出来る人は稀だろう。初心者B君は、何とアジを自分の手で三枚におろしていた。底知れぬポテンシャル。ラタトゥイユも美味い。私の納豆汁は男性陣も含め皆最後まで飲み干してくれた。ピーマンも好評。かくして調理と食事は無事終了し、いよいよ審査結果発表の時間となった。
輝ける第一回目の優勝者が発表される。固唾を飲んで見守る男性3名。「結果を発表します。今回の勝負・・」。下される結論。さあこい。誰の勝利だ。「結果はノーコンテストです」。ギャー。会場に渦巻く男性の怒号と悲鳴。無情で冷血な審査員の口から出た言葉は、「皆さん制限時間オーバーです」。
気付けば、調理を初めて3時間が経過していた。すっかり制限時間の存在を忘れていた男性陣。炒めるのが楽しすぎた。包丁を使う自分達に酔っていた。その結果が3時間。結果が発表されないテストほど空しいものは無い。オチではなく、本当にノーコンテスト。我々に足りないのは手際の良さだった。
第二回目は恐らくありません。あしからず。
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